顧客との繋がりを構築するためのツールやフレームワークは、一見便利そうだが、誤解を招きやすい。そして、それらの手法がその形成を阻む壁になっていることが、しばしば見受けられる。その例として真っ先に浮かぶのが、カスタマージャーニーである。
この業界にいれば、誰もが目にした、もしくは携わったことがあるだろう。見た目は様々で、円形やファネル、折れ線、カラフルな棒グラフだったかもしれない。どんな形状であっても、その目的は一つ。消費者が、潜在顧客からアドボケイト(ファン)に変身を遂げる道のりを可視化することだ。
これはマーケティング戦略を練るのに役立つ一方、語弊があるので要注意だ。下記の3点を検討したい。
1. 正直な話、ジャーニーの当事者は顧客ではない
一般的に、自分とブランドとの関係性を気にかける顧客はいない。彼らの焦点は、欲しい商品やサービスを納得のいく価格で得られるかどうか、である。
2. 実は、ブランドまたは企業のジャーニーである
私たちは消費者との距離を縮めたい。私たちは、消費者のベストな選択肢となりたい。そう考えてみると、これは私たちのジャーニーであるはずだ。商品やサービスが、どのように選択肢の一つから唯一のオプションに変わっていくのか、である。いわゆる「カスタマー」ジャーニーは、実はブランドを中心軸に展開し、アカウンタビリティと顧客へのミッションを隔てるものなのだ。
3. ジャーニーは線状でも円状でもない。
消費者は、ブランドとのインタラクションを通じ、そして、ニーズが合致した時に劇的な動きを見せる。彼らとの距離を縮めたいのであれば、彼らのニーズに近い場所を狙ってコネクションを構築する必要がある。
それならば何故、顧客側から私たちブランド側に寄ってきてもらうことを前提としているのか?本来、逆であるように思えるのである。ブランド側が消費者に向かって近づくことが必要ではないのか?
言葉というのは大切だ。
普段使っているツールを見直して、顧客を中心に据え、当事者を私たちに置き換えてみよう。すると、明確化し有効な策に導いてくれるだろう。
下記のようなアプローチを提案したい。仮にこのような形でコンセプトを再構築したら、顧客エンゲージメント施策はどのように変わってくるだろうか
•「新規獲得(オンボーディング)ジャーニー」に代わって「信頼形成ジャーニー」として新しい買い手にブランドの信頼を得てもらう
•「購買継続(リテンション)ジャーニー」に代わって「リスペクトプログラム」とし、どれだけ顧客を大切に思っているかを伝える
•「再購入ジャーニー」に代わって「再販売ジャーニー」とし、再び購入してもらうための努力をブランド側で担う
•「顧客カムバック(ウィンバック)ジャーニー」に代わって「もう一度貢献させてください」というプログラムにする
最近頻用されるフレームワークの多くが、顧客エンゲージメントにおけるブランド側の重荷を、顧客に背負わせている。代わりに、その比重を私たちブランド側で多く担うようになったら、ビジネスの基盤をより強固なものにできるのではないだろうか。