マネージング ディレクター カイロ・マーシュ
こんな辛い真実がある。
あなたは果敢に企業戦争の真ん中に立ち、汗と涙をこぼして渾身のキャンペーンを実現に漕ぎ着けた。しかしながら、懸命に手を伸ばしたその顧客には、想いが届いていない。
売れっ子のタレントを起用したTVコマーシャルであれば、何秒か視聴者の目に止まるかもしれない。そして間も無く、記憶の彼方に葬られてしまう。雑誌広告ならば、有名人が載っていなくても、視界には入るだろう。だがしかし、次のページへ視線が移る瞬間に、忘れられてしまう。サーチエンジンやバナー上の広告に至っては、忘れる以前に、多くの場合は認識さえされていないだろう。その中でも幸い、ウェブサイト、SNSチャネルやアプリまで遷移してきたオーディエンスがいるとする。やっときてくれたが、ページを開いてそして離脱する。文字通り離脱した彼らは、もう戻ってきてはくれない。
辛い真実である。
でも、気を落とす必要はない。あなたのせいでも、上司のせいでもない。代理店やプロダクション、タレントにも非は無い。
しかし、ここに辛さがある。
ほどんどの顧客は、あなたのメッセージに興味がない。
なぜか?
売り込みされるのを好む人はいないからだ。
あなたが売り込む時、すでに買う意欲がある人にしか、その声は届かない。ほどんどの場合、売り文句を目にしても、そもそも買おうという気持ちがないから意味がないのである。当然のように、キャンペーンは暖簾に腕押しとなる。
辛い真実だ。
ほとんどの場合、マーケティングの発想が間違っている。
つまり、マーケティングには「売りこみ」以外の新しい視点が必要である。それは、「尽くす」というアプローチだ。
両者の違いは至ってシンプルだ。
売るという行為は、あなたの都合である。キャンペーン、売り上げ目標、営業成績などブランド側が軸となる。一方、尽くすことは顧客中心のアプローチだ。彼らの情報、ニーズ、彼らにとっての価値の創造である。
それは正しく最適なコンテキストで実施すれば、必ず結果になる。
そこで私たちの発想も、以下のようなものではならない。
• ターゲットは誰か?
• 彼らの不満は何か
• どうやってニーズを特定するか?
• RTB(信じるに足りる理由)は何か?
• 最適なコミュニケーション戦略は何か?
• どうやってKPIを達成するか?
こうした質問はやめて、以下のような視点を提案したい。
• 誰に貢献するのか?
→ 信頼できる顧客の設定
• なぜ彼らの役に立つことが、自分たちにとって大切なのか?
→ 利益やKPI以上に、今回このオーディエンスに貢献するのは何故か?それはどんな意義を持つのか?
• どうしたら貢献できるか?
→ オーディエンスの立ち位置、そこに共に立つにはどうしたらいいか、どうやって彼らの役に立つことができるか?
• どのようにチカラになりたいという意欲と能力を理解してもらうか?
→ オーディエンスの信頼を得るにはどうしたらいいか?
• どのように貢献度、価値を計測するか?
優れたブランドとは、これらに長けているのだ。